このところ安倍内閣の「人生100年時代構想会議」が国会の質疑などでも話題になっています。この会議にはリンダ・グラットン女史も有識者議員として加わっております。彼女は評判の「ライフシフト」(100年時代の人生戦略)の共著者でもあり、この本では、冒頭に「2007年に日本で生まれた子供の半分は、107年以上生きることが予想される」と述べており、多くの方が新聞紙上でも引用されているのでご存知の方も多いと思います。
また、「平均寿命105歳の世界がやってくる」というA・ザヴォロンコフ氏の著書では、「医学の進歩により寿命が大幅に伸びている」ことや、一方で「長寿社会が実現すると、従来の社会福祉制度が立ちゆかなくなる」ことも懸念されております。何れの著書も高齢でも元気に働ける身体であることが前提とされており、「健康寿命の延伸」にほかなりません。
たしかにわが国の社会保障費は年々その増大の一方で、まさに識者の予測に沿った傾向が表れています。その中味は、1)年金、2)医療、3)介護などが主体であり、高齢社会化が増すに伴いその額も増えている訳だがその根本的な対策はまだ示されておりません。
厚労省は「健康寿命の延伸」を盛んに呼びかけておりますが、死に至るまでの「不健康な期間」つまり医療・介護を受ける期間に掛かる費用を幾らかでも削減し得ると期待してのことでありましょう。一方で延伸がさらに平均寿命を延ばしさらなる経費を必要としかねないことも指摘されております。しかし、健康寿命が延伸することにより個人のQOLさらに幸福度は高まることは確かでありましょうし、年金・医療・介護に対する懸念は個別の問題として検討に値するものだと考えています。このうち介護と年金に関しては、身体運動をふくめたスポーツやジムでの体力づくり、さらにメディカルフィットネスなどの運動療法、これらの広い意味での「生涯スポーツ」が適切に介入することにより好結果がもたらされる可能性があるのではないかと思われます。とくにスポーツ庁が中心となり省庁の枠を超えた円滑なスポーツ行政がおこなわれれば、子供の時から高齢に至るまで一貫した健康体力づくりを視野に入れることができ良い効果を生む余地があるでしょう。
ただこれらの介入がどのような効果を及ぼすかについては、漠然と唱えるものではなく、個々の課題について科学的根拠に基づいて提言されるべきではないかと思います。日本運動療法推進機構は、医)42条疾病予防運動施設を核として運動・運動療法を提供しております。また私が昨秋、「スポーツ医学の立場からみた小学校の体育」という小著を上梓したのも、小学校時代のスポーツや身体運動が身体インフラに効果を及ぼし、健康体力づくりの一次予防として健康長寿社会に備えた身体(特に骨と筋肉の成育)を作るのに役立つということを訴えたかったからであります。「100年耐用性のある運動器(骨と筋肉)」の基盤を子供の時から作っておいて、70歳〜80歳を過ぎてからも働ける健康と体力が保障されれば、年金対策や介護費用の削減にもつながるのではないでしょうか。
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